スキップテラスも生みだす。
井の頭の家は西側に塀がない。
ゆえに、中庭は道路側からまったく見えない閉じた空間ではなく、「家」と「家」のあいだの隙間のようにも感じられるだろう。
いみじくもY下は村のような空間と表現していたが、この住宅はひとつでありながら、複数性をもつ。
井の頭の家は、三世代のそれぞれの社会とのつながりを個別につくりつつ、巧みに重ねあわせているのだ。
離れとしての共有スペースは、一階への採光をあまり遮らないよう高さを抑え、半地下となっている。
かくして、視線の高さを変える、建築雑誌では、なかなか伝えられないものがある。
例えば、駅からのアプローチ、建築写真のフレームの外側に広がる風景、あちこちのディテール、撮影後の空間の変容、施主のキャラクター。
もちろん、多くのページ数をさけば、ある程度は情報の解像度が高まるけれども、誌面は限られているわけだし、特に個人が暮らす住宅は、誰もが訪れることができる公共施設と違い、雑誌が伝えることから考えるしかない。
H比生寛史とK藤隆司による「雪巨三月見台の家」の見学を希望した理由は、以下の二点である。
ひとつは、雑誌の文章で説明されていた近隣のコミュニティが生きている環境を知りたかったこと。
もうひとつは、作品のタイトルにもなった月見台に立って、三六○度を眺めたとき、まわりに何が見えるのか、ということである。
いずれも、雑誌というメディアからすくいあげるのが難しいポイントだ。
かもしれない。
またテラスからは、向かいの建築のテラスで洗濯物を干す人が見えた。
もちろん、道路を歩く人も視界に入る。
井の頭の家は、中庭をめぐる家族内のコミュニケーションに完結せず、テラスを媒介して、地域との連続性を強く感じさせているのだ。
訪問したのは、快晴の朝。
路地を入ると、まず端から端までふとんをかけたバルョニが目に飛び込む。
月見台の家は、シンプルな直方体の箱なので、事前にイームズ邸を連想していたのだが、こちらはレイ・イームズのスタディしたカラーパネルではなく、住人のふとんによってカラフルになり、生き生きとしている。
そういえば、イームズ邸も生活の痕跡にこだわり、建築とモノが見事に調和していた。
ちなみに、施主の妻からの要望として、家族全員のふとんを一度に干せることがあったらしい。
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